憂い顔の童子

価格: (税込)
出版:講談社
カテゴリ:単行本
ページ:532頁
JAN:9784062114653
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エディターレビュー
   センダックの絵本を下敷きに、大江健三郎の義兄である伊丹十三の自殺を扱った『取り替え子』の続編である。

   国際的な作家の長江古義人(こぎと)は母の死後に故郷の森へ移り住むことを決意する。同行者は知的障害者の息子であるアカリと、10年も前から古義人の小説を研究しているアメリカ人女性ローズ。妻の千樫は自殺した兄、吾良(ごろう)の女友達を助けるためベルリンに滞在中だ。

   故郷に戻った古義人はしばしば引用される『ドン・キホーテ』の主人公のように喜劇的な冒険者として描かれる。吾良の自殺を中心に魂の再生を描いた迫力のこもった前作に比べれば、1960年代の政治活動のパロディをするなど、本書はノスタルジックな色合いが強いといえる。その理由は、本書のなかで大江自身がモデルと思われる古義人が言っているように「自分が作り出した作品世界において根本的な主題系を(中略)あらためて検証しようとしている」からにほかならない。そして、検証の中心になるのが土地の伝承に出てくる「童子」だ。つねに少年として森の奥に生きる童子は、この土地を危機が見舞う際、時を越えて出現し人々を救う。古義人は幼い頃、童子に置き去りにされたという心の傷を抱えてずっと生きてきたのだ。

   狂言回しの役割を担うローズの客観的な批評も盛り込み、みずからの軌跡や土地の伝承をつまびらかに検証する本書は、戦後50年の日本社会の再検討のみならず、200年に及ぶ日本の近代化の歴史を周縁から問いなおす大江文学の集大成である。同時に、最も重要な主題にあらためて向き合い、新たな地平を切りひらく野心作といえるだろう。(齋藤聡海)

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