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おとうと (新潮文庫)

価格:¥ 420 (税込)
出版:新潮社
カテゴリ:文庫
ページ:235頁
JAN:9784101116037
Amazon.co.jp 売上ランキング:本で17270位
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レビュー
作品が隠蔽するもの Date:2009-12-20
おすすめ度
 物語は二部構成である。前半は碧郎の中学入学から退/転校、童貞を失う翌秋までの一年半。後半は碧郎の入院から死亡までの、春から秋の半年である。こうなると前後を分けている「あの時から二年たっていた」と簡単に記されている空白は、単なる欠落ではなく重要な仕掛けである可能性が高い。何故ならば物語の進行上で、2年の空白がおかれる必然性は全く見当たらないからである。
 この間には関東大震災があり、一家は転居を余儀なくされるが、父の文筆はますます盛んで、暮しに問題はない。碧郎は十九才になって予備校通い、げんは二十二才で、高等女学校を卒業した後は家事手伝いをしている様子である。
 げんは一生で最も大切なこの空白時期に、一体何をしていたのか。家には時代を先走ることを役目とする編集者も大勢出入りしており、げんが外の世界を知らない訳はない。この頃には女子大も次々と創立されている。げんが進学を強く望めば、気の弱そうな知識人の父があくまで拒否することはあり得ないだろう。縁談も破談にしたニューヨーク行きの後にも幾つもあった筈だ。げんは家を離れることが必要で、その環境にも恵まれている。利発なげんにそれが出来ない何かが、この二年の間に起きたと考えるしかないのである。
 結婚したが婚家とのそりが合わずに離婚したのか。例のスパッツ男に犯されてしまったのか。それ以上におぞましいこととして、「童貞を失った」とわざわざ記される碧郎と近親相姦の関係になってしまったのか。最後が最も可能性が高く、絶対に隠蔽されなければならない出来事だ。
 げんは碧郎が入院すると、若い娘に看護は無理だという周囲の反対を押し切って寝起きを共にする。そこには夫婦も越える異常な親密さがある。病室には毎日「おやとことおかせるつみ・・・」という詠唱が聞こえる。げんは碧郎にとって、姉と言うよりは母の関係に近く、「おやとことおかせるつみ・・・」を自分たちのこととして聞いているに違いない。
 これは一読者の妄想である。しかしこのように考える隙間をこの小説は残している。そうとでも考えない限り、この小説は、げんという一見賢そうで実は薄馬鹿な女が、全てを家庭環境のせいだとして無反省に生きる様を書いた「泣きごと作品」としか受け取れない。そうではないだろう。結局2年の空白の「重み」を読者に提供するためにこそ、この小説の存在価値があるといえる。
湿り気 Date:2009-09-21
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姉とおとうと、父と継母、ぎこちない家庭。
物語は雨から始まり、ジメジメとした、やりどころのない不安定さが漂う。
弟は時々問題を起こし、姉はそのたびに虐げられた気分を味わう。
やるせない気分と重苦しい世間のイメージを描いた前半部分は、弟の闘病生活における人と人との繋がりの暖かさや、ふれあいの美しさへの伏線になっている。
しかし、悲しい。

でも、絶望的にはならないのは、最後には、愛が描かれているからだと思う。
読書会 Date:2009-09-20
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私には「おねいさん」はいませんが、げんさんのようなおねいさんは全ての男の理想のように思います。男はみんな結局「母性」に甘えてしまうのです。この家もみんな母性をもっているげんさんに甘えているのです。その母性は読者である私達にも激しく伝わってくるのであります。理想像なのであります。碧朗も死の直前まで甘えています。その甘えは単なる甘えではなく、いわば救いを求める甘えなのです。その救いは宗教とは違う、もっと根源的なものなのです。ですから我々はその甘えを生理的に理解することができるのです。そしてその甘えによって、人々が救われることも直感的に理解できるのです。
本作は日本人には理解しやすい、母性によって結びついている、普遍的な家族関係なのでしょう。あくまで男の目線からの感想ですが、女性はどう思うのでしょうか
救いようがない話であっても強さと明るさがあって Date:2009-09-05
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 幸田文を読む初めての機会となった。

本書は主人公の弟の堕落と死を描き出した話だ。ある意味で
救いようがない筋ではあるのだが 読んでいる印象としては
時として明るさを感じさせる点が印象的だ。

これは主人公の げん が持っている強さと優しさに負っている
面がまず有る。弟と継母に苦労しながらも 彼女の強さは不思議な光芒
をはなっていて読む者に何か明るいものを与えてくれる気がする。

加えて 主人公の父親だ。登場場面は少ないながらも そこに見える
姿は決して 子育てが出来ない父親というものだけではない。主人公の
目を通じて 父親の苦悩と愛情がじんわりと滲み出ている。これも本書の
「明るさ」の一因だと僕は読んだ。

 家族というものの輪郭がぼやけてきている現代に本書を読むことは
勉強になる思いがする。かつての日本にはこのような家族があったこと
には感銘を受けた。
家族とは何かを考えさせられる一冊 Date:2008-08-07
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おとうと (新潮文庫)

母の手作りのお弁当を持って出かける姉(げん)と、パンをもって出かける「おとう
と」・・・おとうとの姿が私自身と重なりました。
「おとうと」はげんさんのご家族の中で「迷える羊」の役割をしていたのかもしれません。
最後の場面・・・病院の冷たい壁に囲まれて結核と闘う「おとうと」と彼を見守る姉、お見舞いに来て、初めて「おとうと」にいっぱいいっぱいの愛情を示す母親の姿・・・思わす涙ぐんでしまいました。
家族とは何かを深く考えさせられる一冊です。お勧めします!
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