アブラクサスの祭 (新潮文庫)

価格:¥ 340 (税込)
出版:新潮社
カテゴリ:文庫
ページ:149頁
JAN:9784101166520
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エディターレビュー
   現役の臨済宗の僧侶である著者が上梓した、3作目の中篇小説。先に記された『中陰の花』(第125回芥川賞受賞)や『水の舳先』と同様、今回の主人公もまた僧侶である。しかし、人々の苦悩を見つめる立場であった前作までとは異なり、本書では、主人公である僧侶自身が心を病み、つかみどころのない「自分」を探そうともがいている。

   東北の禅寺に身をおく僧・浄念は、躁うつ病と分裂病を患っている。ときには「うつ」の、ときには躁(そう)の、あるいは薬が効いて落ち着いた状態の、「さまざまな自分」に混乱する毎日。本当の自分とは何なのか。若いころから傾倒しているロック音楽に自分探しの答えを見いだすべく、ライブコンサートを決行する。即興演奏が盛り上がるなか、しだいに常軌を逸していく浄念。ライブ直前に口走った「アブラクサス」とは何なのか。

   自殺未遂、愛欲への執着、ロック…。そんな過激な過去と精神病を負う、いわゆる「聖者」らしからぬ主人公の姿が新鮮である。ただ、入り乱れる思考描写や抽象的な挿入歌が物語を難解にしている観が否めない。一方、主人公の妻の目線でつづられた後半部分は、平易な言葉が用いられており、読みやすくなっている。そして、妻が精神を病んだ夫に対する尊敬を取り戻していく場面は、全体に「重い」物語の中で、読者に安堵感を与える中和剤となっていると言えよう。(冷水修子)

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