エトロフの恋 (新潮文庫)

価格: (税込)
出版:新潮社
カテゴリ:文庫
ページ:242頁
JAN:9784101187129
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エディターレビュー
 『彗星の住人』『美しい魂』に続く、「無限カノン」3部作の完結編となる本作は、日本を脱出した主人公野田カヲルが降り立った聖なる島エトロフでの、死と再生のプロセスを描く。

   不二子との禁忌の恋の代償として、国を追われるようにして「私」(カヲル)がたどり着いたのが、極寒のエトロフ島であった。日本とは比べものにならないぐらいの貧しい生活環境の中で、寒さと寂しさとメランコリーに打ちひしがれる「私」であったが、ロシア語を学び、アイヌから狩の技術を受け継いだ80過ぎのエルム爺さんに自給自足の知恵を授かり、さらには人里離れた山小屋に住むマリア一家と親しくなるにつれ、島での生活に慣れ始める。上陸当初は日本から送り込まれたスパイと疑われる主人公であったが、徐々に村人たちに受けいれられていく。

   死者の魂が還(かえ)ってくる森の近くに住むマリアは、死者の声を聞いたり運命の流れを読むことができる霊能力者であった。マリアの娘で大学時代に日本語を学んだニーナは、母譲りの霊力がもたらす不吉な運命から逃れるべくシャーマンの能力を捨てる。そんなニーナに「私」は次第に魅かれていく。いっぽう、息子のコースチャは、シャーマンの末裔として母親の後を継ぐ決意をする。

   美しい歌声と男性機能を失い、逆賊として日本を追われた「私」が、死者がざわめく黄泉の国エトロフ島でシャーマンと出会い、火山の麓の暗い森での神秘体験を通して、生と死、現実と夢のはざまを流れる穏やかなもうひとつの時間の中で、死者や不二子と再会する。不滅の恋を信じ、不二子との約束を守り通した主人公に、結末で新しい予言がもたらされる。そこには、彼の娘へと引き継がれる新しい物語へのリンクがある。ピンカートンと蝶々夫人に始まる一族の劇的な物語を締めくくるにふさわしい静謐さと、しずかな始動感を併せもった印象的な結末だ。

   皇室のモデル小説と読まれがちな「無限カノン」3部作であるが、国家‐歴史‐恋愛の連関性をこれほどまでに表象化した作品は他に類を見ない。まちがいなく島田雅彦の代表作である。(榎本正樹)

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