マシアス・ギリの失脚 (新潮文庫)
価格:¥ 820 (税込)
出版:新潮社
カテゴリ:文庫
ページ:632頁
JAN:9784101318158
Amazon.co.jp 売上ランキング:本で133495位
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レビュー
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なるほど大きな物語ではあるが・・・ Date:2009-09-10 おすすめ度 ![]() 初見は確か箱入りの単行本だったが、今回新古本屋で文庫版を見つけて久しぶりに再読。 巻末の菅野昭正の周到な解説の通り、これは「柄の大きい」様々な要素がうまく纏め上げられた「領域のひろい」現代文学である。 理系出身の小説家らしく、航空力学の関わる細部などがやけに感心(少々は辟易)させられたが、クライマックスのひとつと言えるメルチョール島の祭りの場面や、大巫女との交合のシーンは私見で言えば「古い」と感じられた。まあそれは描写の問題であり、好き好きの問題もあろう。しかし、文体とナラティヴの転換は器用とは思うものの、菅野が褒めるほどのモノとは今回は思えなかった。 それでも、である。これだけのお話をそれほど退屈させずに読ませる力は認めなければなるまい。 リアリティに関して言うと、疑わしいところも。日本のカップラーメンを輸入して儲けるというところなどその際たるものである。貨幣価値の問題があろうがと突っ込みたくなる(先行レビュアーの1人が指摘している通り)。 国家論としてはどうか? 3島を精神的に統べるメルチョール島の構図ありきがそのまま最後まで引っ張って行く(菅野によれば、それが作品を「賦活」する)が、どうにもこのテイストは昔たくさん読んだラテンアメリカ文学を思い出させる。現代の時間と太古が眠る永遠の時間の交錯とかいうやつだ。これはどうなのか。そもそもこれが国家論になっているとは思えないのであるが・・・・。 |
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外国人の読者はどう読むか知りたい Date:2009-04-30 おすすめ度 ![]() 古本屋でいわばジャケ買い。色鮮やかな南洋の風景を描いた表紙に目が釘付けにになったが、不可思議な物語にも魅了された。大学を中退し、南太平洋を中心に渡り歩いたという著者の若き日の体験がこの物語の豊かさを支えている。 ただ、この書はどう読めばいいのか。西欧文明に対する文明批評なのか、魔術的な世界を記した芳醇な物語なのか、それとも、大国に翻弄されるなか、小国の生きる道を模索した1人の政治家、マシアス・ギリの一代記か。 ところで、ガルシア・マルケスの「百年の孤独」と似ているとの指摘が散見されるが、どうだろうか。確かに架空の世界を構築した点など類似点はあるが、比べるのはどうか。 ガルシア・マルケスの魔術的と形容される南米世界に対し、「ナビダード共和国」の特徴はあくまで「他者」である日本人の著者が創出した点。それは、日本とかつて「南洋」と呼ばれた地域との間に歴史的な文脈に支えられている。いかに、摩訶不思議な世界を装うとも、よくも悪くも日本人としての視線が透けて見える。 旧日本軍の慰霊団、ケンペイ隊の「カツマタ」、経済先兵のような「鈴木」。時代の先を読むに優れた「龍造寺」もそうだ。日本という「回路」があるからこそ、500ページを超える長い物語にも抵抗感は少ない。 果たして、日本人以外の読者がこの書をどう読むのか興味がわく。 |
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ユーゴー+マルケス Date:2009-02-22 おすすめ度 ![]() オセアニアの架空の国家・ナビダードを舞台に繰り広げられる壮大な伝奇的寓話。膨大な分量ながらも疲労を感じさせぬ、池澤夏樹渾身の巨編だ。 スーパー経営者から大統領の座にまで上り詰めたマシアス・ギリ。彼は表層的には善人として振る舞っているが、その実、強権を振るう独裁者である。 ある日、植民地統治時代を通して日本とのコネクションを持つマシアスの元に、日本からの慰霊団が訪れる。ところが、この頃からナビダードでは異変が頻発。実は過去に重大な秘密を隠蔽していたマシアス。全ては彼への応報としての大いなる力の為すものなのか…? 大統領、娼婦、亡霊など個々の登場人物達に纏わるエピソードが、まるで史実を物語るかのように綴られてゆく。ときにダイナミックに、ときに読者のイマジネーションに委ねる様に。それはあたかも一人の人間がみている長大な夢のようだ。 本作では池澤の詩情を湛えたストーリーが、海外の名作を吸収しながら遺憾無く発揮されている。マシアスの栄達と没落という無情はジャン・バルジャンのそれとオーバーラップするし、マジックリアリズムによって描かれる共同体は「百年の孤独」に通じるスケールを湛える。まさに、戦後日本を代表する総合小説の一つだろう。 深甚なテーマ性といい、難解な背景といい、ティータイムに手軽に楽しめるタイプの小説ではないし、読者は相当骨が折れることと思う。でも、根気強く最後まで読破して欲しい。この破格の物語がもたらす感慨は、人生の些末な虚しさなど造作もなく埋め尽くしてくれるからだ。 |
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すばらしい物語 Date:2009-02-21 おすすめ度 ![]() 池澤夏樹さんのものはほとんど読んでいますが、やはりこれが最高傑作でしょうか? 個人的には「花を運ぶ妹」もかなり好きですが…。 内容、物語自体のすばらしさ、面白さはもちろんですが、アナザワールドと そのまたアナザワールドとの行き来がとても心地よい物語だと思います。 文字と行間を五感で味わえる物語ってあまりないと思うので…。貴重ですね。 ここしばらくの池澤さんの作品は、個人的にはあれ?という感じのものが多いので そういう意味でも、私にとってこの本はとても貴重。 |
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架空の島国に重ねた日本論 Date:2008-11-01 おすすめ度 ![]() オセアニアにある架空の島国(ナビダート)を舞台にした幻想的な独裁者小説。こう書くと、どうしても「族長の秋」等のラテン・アメリカ小説を思い出してしまうが、この作品に出てくる独裁者はラテン・アメリカの独裁者小説の主人公に較べると大人しく、血みどろのことはやらない。意図的かもしれないが、まるで日本の政治家のようである。(実際、主人公の師匠・竜造寺は日本の国会議員である。)劇中にずっと描かれている旧日本軍の侵略の記憶とODAを活用した日本の外交政策、日本とナビダートのような島国国家の政治のありよう、といった要素が、南の島のマジック・リアリズムとあいまって、独特の空間を作っている。長い小説なのに退屈せずに読めたが、気になったのは以下。 -1. 主人公が日本から即席ラーメンを輸入して大儲けするエピソードがある。この小説のように日本の小売店から買ったラーメンを輸入して販売すると、食料品が日本より遥かに安い途上国の場合、庶民には全く手が出ない値段で売ることになるので、少し設定に無理があると思った。 -2. 小説中、日本政府が南沙諸島問題等に対応するため、自衛隊の秘密基地をナビダートに置くべく画策する。また、複数の登場人物(日本人)が、米国覇権の終了後に日本が再び覇権国として羽ばたくことを語っている。が、この小説が出版された平成5年から10年以上が経った今、日本の外交は作者が懸念したよりもずっと及び腰だったことが判明しており(笑)、今の時代に読むとちょっと設定に無理が出てきてしまっている。 -3. この小説を発表した頃、作者は南の島の精霊、大きな力などが作り出すマジック・リアリズムを試みた作品を他にも書いており、この作品でもそのようなマジックが肯定的・絶対的なパワーとして取り上げられる。一方、この小説ではナビダートと日本が同じ島国として、特に政治システムが重ねて語られており天皇制にも言及されている。(鳥居が倒れたり、ケンペー隊が登場したりする。)でも、上記のようなマジックを持った「精神的中心」に支配されるナビダードの共同体システムは、突き詰めれば竜造寺のような男にとっての天皇制にも通底するものがあるだろう。マジックで日本のナショナリズムを批判する、というのは単に作者の南方贔屓である。 なお、この小説の中で登場する遺骨収集団のエピソードを読む限り、戦争の記憶に関しては批判一辺倒ではなく作者なりのバランスを取ろうと試みたようだ。が、単行本で入っていた日本国旗が燃える挿絵が、この文庫版では抜けている。何だか出版環境も窮屈になってきてるみたいだ。 |


