王国―その1 アンドロメダ・ハイツ―

価格:¥ 1,155 (税込)
出版:新潮社
カテゴリ:単行本
ページ:134頁
JAN:9784103834038
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エディターレビュー
   薬草茶づくりの名手であるおばあちゃんと、小さな山小屋に暮らす女の子・雫石(しずくいし)。心豊な生活を営む2人だったが、雫石が18歳になったとき、ふもとでの開発が原因で、山を降りることを余儀なくされる。「いつでも人々を助けなさい。憎しみは、無差別に雫石の細胞までも傷つけてしまう」というおばあちゃんの助言を胸に、山を降りた雫石は、不思議な力をもつ占い師・楓(かえで)のもとでアシスタントとして働くことになるが…。

   どこか浮世ばなれした雫石、超能力をもつ楓。そのパトロンで恋人の片岡さん。雫石の恋人の真一郎くん、アパートの「ものすごくいやな感じ」の隣人。彼らが繰り広げる物語は、『キッチン』から『アムリタ』までの初期の作品を彷彿とさせるファンタジックなストーリーである。しかし一片の無駄もない文章とストーリーで組みあげられた本書は、円熟期にある作家の手で極限まで磨きあげられた珠玉の作といえる。そして同時に、「また新しい章が始まる」という印象的な言葉で締めくくられているように、吉本文学の新たな作品世界の萌芽を予感させるものでもある。

 「守られている女の子の生き方の物語」である本書には、著者の計り知れない他者への愛情の深さがにじみ出ている。行方不明のインコを探してほしいという少年に、嘘をついてしまう楓。不倫関係にある真一郎くんとの恋をひそっりと続けていく雫石。たくさんの無垢な魂が、それでもしっかりと人生を歩んでいく姿が胸を打つ。物語に静かに流れる、決して声高に叫ばれることのないメッセージが、読むものの心をじんわりと癒してくれる。(中島正敏)

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