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殉死 (文春文庫 し 1-37)

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出版:文藝春秋
カテゴリ:文庫
ページ:174頁
JAN:9784167105372
Amazon.co.jp 売上ランキング:本で265429位
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レビュー
夫人の最期 Date:2010-01-04
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坂の上の雲で乃木希典という人間に興味をもって、本書を読んだ。一言で言えば、坂の上の雲よりも重い感銘が残る。文体はおよそ司馬らしくない乾いたタッチで、特に後半の「腹を切るということ」に至っては高品質のドキュメンタリーを読んでいるような凄まじい迫力、これは小説にせずに論考のままで書き進めたのは司馬の英断であったが、歴史家としての司馬の力量というものをまざまざと見せつけられる一作となっている。司馬が乃木希典の軍事的才能を断罪したことは良く知られており、それはおそらく事実であろうが、司馬は日露戦争後の乃木希典の生き様には、人智を超えた、近付き難い一種の恐れに近い気持ちを抱いていたのではないかという印象さえ受ける。
特に衝撃を受けるのは最後の最後、静子夫人が15分前になって自分の死を意識するくだりである。夫人が乃木の部屋に入ってからの出来事は司馬の推量であり、自分の死を意識したのが本当に死の直前なのか明治帝の大葬の日の朝なのかは不明であるが、直前の夫人の言動が事実であれば、やはり司馬の推量通り、夫の部屋に入ってからということなのだろうか。謎を含んだ最期である。
精神の気高さ Date:2009-07-03
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乃木の軍事能力に対しての作者の評価は手厳しいもので書いている途中から半ば呆れているのではないかと思われるほどで、
この点に関しては乃木や他の軍事関連の本も読んだ上で判断した方が良さそうなものの、
乃木の精神性に対する理解と分析は秀逸であり、ややもすると一種狂信的ともいえる独自の規範を持つ乃木が
なぜ明治天皇や児玉源太郎といった周囲の人間にとどまらず、一般庶民にも愛され続けていたか良く分かる作品だと思います。
人間の生き方について100年前の日本人から学ぶこと Date:2007-06-14
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 本著を読む前は「坂の上の雲」の余話を短くまとめたこぼれ話的な作品という印象を抱いていたが、読後はこぼれ話どころか、「坂の上の雲」に匹敵するインパクトの強い作品ということに気がついた。特に「腹を切るということ」は日露戦争後の平和な時代のストーリーということで、つまらない話という先入観を持っていたがが、何万人もの日本の陸軍兵を無駄死にさせ、戦死した兵や家族への申し訳ない想いを抱きながら生き続ける姿は悲愴で、東郷の華々しい戦後の生き方とは対照的な姿が痛々しい。明治天皇への恩に報いるために、昭和天皇の教育に没頭し、昭和天皇の高潔な人格の形成に大きな影響を与えたことを考えれば、昭和時代の繁栄に少なからず貢献した功績を評価してもいいのではないかと思う。乃木を愚将と評価する人はぜひの作品を読んでから評価してほしい。「坂の上の雲」や「殉死」に登場する100年前の日本人から学ぶことは多く、現代社会を生き抜くための心がまえや指標を与えてくれる作品だと思う。自信を失った人や失敗をした人、絶望を感じている人には特に得るものが多いと思う。「坂の上の雲」のドラマ化を機会に本作品のドラマ化を同じキャストで期待したい。
乃木将軍 Date:2007-05-17
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乃木将軍について。小説というよりは随筆に近い。長州出身だというだけでトントン拍子に陸軍で出世して、誰もが陸軍司令官としての才能に欠けているのを知りながら出世スピードは止まらず、しまいに日露戦争の最も重要な局面で指揮することに。自分の才能の限界を認識していたからこそ、ストイックに形式美を追求せざるを得なかったのかもしれないと思ってしまう。さらに、日露戦争以後は天皇に重用されてしまい(?)、遂には殉死せざるを得なくなってしまったのかもしれないとも思ってしまう。素の自分と周囲の評価、期待に、常に大きなギャップのある不運かつ劇的すぎる人生という印象を強く持った。日露戦争で乃木の突撃一本槍の作戦を何とか翻意させ、辛うじて日本の勝利を呼び込んだ児玉源太郎の存在は日本にとって幸いだったが、その彼も過度の精神的疲労で戦争後にまもなく(乃木の殉死と大差なく)亡くなってしまったのは何とも切ない。
無能司令官:軍神というギャップを埋める美学 !! Date:2006-03-16
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司馬遼太郎は「坂の上の雲」において乃木希典の戦争司令官としての無能ぶりを徹底的に描いた。しかし、時にひとは乃木を軍神と呼び、いくつかの地では乃木神社において祀りさえする。無能とされた司令官が軍神にまでなるには、無能を埋めて余りある何かがあったのではないか。「坂の上の雲」では、主役は秋山兄弟であって乃木は脇役。乃木が主役の「殉死」では、どう書かれているか。

司馬によれば、日露戦争以後、伯爵、学習院長、宮内省御用掛などを拝し明治天皇の寵を受けるまでに至った乃木の行動の規範は、山鹿素行の陽明学に源をもつ美学にあり、それがさらに長州は長府毛利家という出自の上にこの上もなく展開された挙げ句、かような英雄になり得た、という。司馬のこの解釈は、俗に言い換えれば、出自の良さに加えて、美学と言われうるまでに格好を付けた結果である、と言うことも出来る。

世に、それに近いパターンで歴史に名を残す人々は多い。しかし、司馬が描くように、無能というあからさまな評価と神にまで祭り上げられるという処遇とを併せ持つような人は、そのギャップの大きさにおいて空前絶後ではなかろうか。そのギャップを埋めたのが彼流の美学だとすれば、そこには看過できない問題がいろいろ見えるように思うのだが、読書子の読み方や如何に。
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