銀杏坂 (光文社文庫)
価格:¥ 600 (税込)
出版:光文社
カテゴリ:文庫
ページ:346頁
JAN:9784334736156
Amazon.co.jp 売上ランキング:本で477955位
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エディターレビュー
きわめて異色な連作短篇ミステリーといえる。これは架空の都市、香坂市を舞台に繰り広げられる5つの事件を描くものであるが、事件にはどれも超常現象が関連する。たとえば最初の短篇「横縞町綺譚」は、幽霊の住むアパートで宝石の盗難事件が起こるという話だし、表題作「銀杏坂」は、幼少時より予知夢の能力を持つ女性が、夫を殺す夢を見たので自分を逮捕してほしいと要求してくる、というくだりで物語が始まる。ユニークなのは、本作に出てくる超常現象がどれも、種や仕掛けのない「正真正銘の」超常現象であるという点だ。
5つの事件を解決するのは、木崎という名のさえない中年刑事。まるでオカルト趣味のない彼も、初めの事件でアパートの幽霊をこの目で見てしまった以上、もはや疑うわけにもいかなくなる。しかし宝石泥棒の犯人を幽霊と推定するも、実体のない幽霊はものをつかむことができず、犯人とはなり得ない。では犯人は誰なのか?
出色は「雨月夜」。男が夜分に後ろからすりこぎで頭を殴られケガをする、という事件が起き、被害者に婚約者を奪われた過去を持つ男性に嫌疑がかかる。彼にはアリバイがあったが、同時に彼には、寝ている間に魂が抜け出し生霊となって町を徘徊する、という癖があることも判明する…。
謎解きのおもしろさも相当なものだが、オカルティックなモチーフの多用にもかかわらず、いやむしろそれゆえに、現代の人間の内面のリアルな反映に成功していることには何より驚かされる。そして黒沢清のホラー映画にも似た、いわゆるおどろおどろしいオカルトとは正反対の静謐(せいひつ)さを、この小説は感じさせてくれる。(岡田工猿)

