草にすわる (光文社文庫)
価格:¥ 540 (税込)
出版:光文社
カテゴリ:文庫
ページ:270頁
JAN:9784334740719
Amazon.co.jp 売上ランキング:本で220593位
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エディターレビュー
ロングセラー『僕のなかの壊れていない部分』で新境地を開いた著者の、覚醒の物語2編を収めた中編小説集。生きるための切実な理由を求めて会社を辞めた青年が、人生につまずき、そこからまた立ち上がろうとする姿を描いた表題作「草にすわる」。年老いて仕事への情熱を失った高名な文学者が、予期せぬ形で孫と出会うことで生命のありがたみに気づく「砂の城」。両作品とも「生きるとはどういうことか」という大きな問題をテーマにした意欲作である。
人生に行き詰まってしまったふたりの主人公に共通するのは、生きる意味ばかりを性急に追い求めてきたという点だ。その先にあるのは、「死ぬしかないような切羽つまった理由でもなければ、人は生きつづけるしかない」「所詮、生きるとはそんなものだろう」(「草にすわる」)というような諦念と無力感でしかない。生きることそのものを祝福することで生きる力を取り戻していく彼らの姿には、同じような袋小路にはまりこんでしまった人に向けた強烈なメッセージが込められている。
伝えたいことを前面に押し出す著者のスタイルをよしとするかどうかで、本書の評価は分かれる。だがそのどちらにせよ、過剰なほど理知的な文体を用いて、現代人の寄る辺なさを見事に浮き彫りにするうまさを認めないわけにはいかない。厳しい現実の中で生きる道をまっすぐに指し示す、冷たくて温かい不思議な味わいのある作品集だ。(小尾慶一)

